ヤツの話
みなさんは黒鯛釣りに一人で行きますか、それとも複数で行きますか?
私は必ずと言っていいほど、決まった釣友と行きます。
この釣友、高校時代のクラスメイトで、もう20数年の付き合いがあるヤツなんですが、
一緒に黒鯛釣りを始めたのが12年前の春先で、以来、一人若しくは他の人との釣行は10回も無いくらいです。
12年も釣歴はありますが、平均して年に5〜6回しか釣行してませんので、通算回数は100回に足りてません。
そんな訳で、釣行回数も釣行場所もほぼ同じなため、釣技、釣果に関してもどんぐりの背くらべであり、
大きさではヤツが、数では私がといったところでしょうか。
さて、我々が釣りを始めたきっかけをお話させてもらいますと、
20歳台半ばの頃に我々はサーフィンをやっておりまして、
ある時、サーフィン仲間の一人が釣具を持参してきたので、アフターサーフィンに釣りをやってみたのです。
私は、もともと子供の頃によくフナなどを釣っていたため、海釣り初挑戦で結構楽しめました。
ある夏の金曜日の夜、またサーフィンのお誘いがあったのですが、
私はその頃にはサーフィンに飽きてきてまして一旦は断りました。
その時、ヤツが「サーフィンしなくていいから釣りしてろよ、おれも付き合うから」と言い出しまして、
そんじゃぁ行ってやるかってなところです。
しかし時間は夜中の11時過ぎ、スナックにいるから来いと言うので、
行ってみるとこれから家に釣具を取りに行くとのこと。
「そんじゃおれが運転してやるから」
と言う私を制して「大丈夫、おれは飲んでない」と言い張るヤツ。
他のやつらに聞いても「こいつは1滴も飲んでなかった」と言うので、
怪しいとは思いながらも「そんじゃたのむわ」ということで、やつの家に向かいました。
みなさん、よく信号で止まった時にライトをオフにしますよね。
ヤツも同様に信号待ちでライトをオフりました。
しかしオフにしたまま発車してしまい、あっという間に検問で引っかかりました。
おまわりさんが車内を覗き込んだ瞬間「酒臭いね」と一言。
「ちょっと息をハァーッとしてくれる?」と言われ、ヤツは「ハァーッ」と息を吸い込みました。
「うん、大丈夫だね。じゃぁ君が飲んでんのか?」
ということになり、酒臭さに関しては私が飲んでいるということでなにも疑われませんでした
(これでいいのか日本警察)
が、ヤツの免許証を見たおまわりさんが「あれっ、きみ誕生日いつ?」とのたまうではありませんか。
なんとヤツの免許証、有効期限が切れておりまして、このまま運転して行く訳にはいかなくなりました。
私も酒を飲んでることになっているため、もちろんだめです。
しかたなく、集合場所となっている友人宅に集まっている他の仲間に電話して来てもらい、
ぶーぶー文句を言われながら、無事にヤツの家に到着し釣具を積み込みました。
再び集合場所の友人宅へ集まって、総勢7人が車2台に分乗し、いざ出発。
数時間後、サーフィンポイントに到着。すぐ横には漁港があるため、釣り組はそちらへ向かいます。
釣具を出すためトランクを開けようとしたところ、「ん?・・・・・・・・・・」私は凍りつきました。
ヤツも一瞬おいて、同様に凍りつきました。
昨夜、ヤツの家に釣具を取りに行った車は集合場所に置いてきて、海に乗って来たのは他の車でした。
もちろん釣具を積み換えた記憶は私にはありませんし、
凍りつき具合からヤツもそんな記憶がある訳無さそうでした。
私は小学生から東京下町育ち、ヤツは生まれも育ちも下町の墨田区。
「テメェ、なんで積み換えてネエんだよ、こらっ!」
「バカテメェ、ふざけんなよこの野郎!」
ヤツとの会話に必ず出てくるいつも通りのやりとりが暫し続きます。
まぁ言い合ってても仕方ない、ここに釣具が無いという事実は動かし様が有りませんから、
漁港の釣りポイントを見にいくことになり、楽しそうに釣りをする人たちを恨めしげに見ておりました。
そうこうしているうちに、頭の悪い我々はやっと気がつきました。
お金は持ってるんだから、安い釣具を買えばいいんだということに。
幸い、すぐ近くに釣具屋さんがあり、
竿とリールのセット980円也と仕掛けと餌を購入し、とうとう、釣りを開始するに至ったのであります。
その後ヤツとはちょくちょく釣りに出掛け、ちょっとだけ高い竿とリールのセットを追加し、
ハゼ、メゴチ、キスカレイ、ニベ、アイナメ等を爆釣していきました。
この頃はほんとに爆釣してまして、必ず周りの釣り師から
「君たち、すごいね。仕掛けは?餌は?」と訊かれ続けてました。
当然、気の良い下町のあんちゃん二人は鼻高々の天狗になり、有頂天に陥るのはあたりまえ。
約3年程の間にすっかり生意気になった若造二人組みは、
「そろそろおれ達もコマセ撒いて、浮釣りなんかやらねぇか?」
なんて気楽なノリで、あろうことか黒鯛釣りに手を出してしまったのです。
どっこいところが、見事に鼻っ柱をへし折られ、完膚なきまでに叩きのめされたのは言うまでもありません。
今だに我々は40cmオーバーを数えられるほどしか上げていないという、テイタラクなのであります。
横須賀新提にて

ということで、私にとって黒鯛釣りの最大の楽しみは、道具に拘ることでも、潮を読んだりすることでもなく、
ヤツと一緒に行く事なんだとつくづく思います。
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